KNOWLEDGE

ナレッジ

TOP / ナレッジ / 第4回:有報3週間前開示|総会を動かすか、決算を早めるか

第4回:有報3週間前開示|総会を動かすか、決算を早めるか

【はじめに】

2026年3月期、有価証券報告書を株主総会前に開示した上場企業は9割に達しました。しかし提出は、平均すると総会日のわずか1.7日前です。この差をどう埋めるか。多くの企業が「決算をあと20日早められるか」と考えていますが、今回の改訂が示した道は、それだけではありません。

【第1章】9割が総会前に開示した。しかし平均は1.7日前

1. 到達点と、その内実

改訂されたコードは、有価証券報告書を株主総会前に提出することを、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として原則に追記しました。そのうえで解釈指針は、総会の開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいとしています(注1)。

実態はどうでしょうか。2026年3月期の有価証券報告書を株主総会前に開示した上場企業は全体の89%にあたる1,926社で、59%だった前年から600社以上増加しました。一方、3週間以上前に開示した企業は前年の6社から5社(2025年3月期に限ればHOYA株式会社の1社)になったにとどまり、上場企業全体の平均は株主総会日の1.7日前でした(注2・3)。

「総会前」と「3週間前」の間には、2桁日数の断絶があります。9割という数字は、多くの企業が総会の直前に滑り込んだ結果です。

2. 目的は「早く出すこと」ではない

ここで、改訂の目的を取り違えないことが重要です。求められているのは、3月決算会社に対して何が何でも5月中に監査済みの有価証券報告書を出せ、ということではありません。

目的は、株主が判断材料をそろえて検討できる状態をつくることです。監査済みの財務情報、役員報酬や政策保有株式などのガバナンス情報、取締役候補者や総会議案。これらをまとめて確認し、必要であれば会社と対話したうえで議決権を行使できるようにする。3週間という水準は、この検討と対話の時間を確保するための目安です。

逆に言えば、有価証券報告書が総会の前日に出ても判断材料にはなりません。「総会前に出した」という事実だけでは、改訂の趣旨に応えたことにはならないのです。

── 図表1:総会前開示の到達度 ──

指標2025年3月期2026年3月期
株主総会前に開示した企業59%89%(1,926社)
3週間以上前に開示した企業1社(2025年度全体では6社)5社
提出日の平均(総会日との差)—1.7日前

【第2章】コードが示した、もう一つの道

1. 「総会の後ろ倒し」は想定された手段である

解釈指針は、3週間以上前の提出が最も望ましいとしたうえで、その実現方法に踏み込んでいます。株主総会の開催日や議決権行使に係る基準日を、従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討する、という趣旨の記述です(注1)。

つまり、総会日を遅らせて3週間を確保すること自体が、金融庁・東証の想定した手段のひとつです。これは、決算を無理に前倒しできない企業への妥協案ではありません。日本の慣行そのものを見直す提案です。

3月末に決算期を迎え、4月末に決算を発表し、5月に監査と招集通知の作成を行い、6月に総会を開く。この日程で有価証券報告書を総会の3週間前に完成させるのは、相当に厳しい要請です。だからこそ、議決権の基準日と総会日をずらすことが、現実的な解決策として選ばれ始めています。

2. 一体開示という到達点

すでに実例があります。アドバンテストは2025年の定時株主総会において、議決権行使の基準日を3月31日から5月15日に変更する定款変更を行いました。同社は変更の理由として、株主との建設的なエンゲージメントには総会前の適切な情報提供が不可欠であるとしたうえで、有価証券報告書と事業報告の一体開示を視野に入れること、7月下旬から8月上旬での総会招集を可能にすることを挙げています(注4)。

その結果、2026年は6月26日に「有価証券報告書兼事業報告書」を公表し、第84回定時株主総会は7月31日に開催されます。開示から総会まで35日間。前年の6月27日開催から、約1か月の後ろ倒しです。

注目すべきは、総会日を動かしただけではないという点です。事業報告等と有価証券報告書の記載を共通化する一体的開示にとどまらず、会社法と金融商品取引法の双方の要請を満たす1つの書類を作成する本格的な一体開示であり、上場会社による実例としては国内第一号とみられると評されています(注5)。3月決算会社が総会の後倒しを行った前例はなく、同様の定款変更を行ったソラコムとあわせて、先例としての意義は大きいとの指摘もあります(注6)。

── 図表2:3週間を確保する2つの経路 ──

観点決算前倒し型総会後ろ倒し型
変える対象決算・監査・開示の業務プロセス議決権基準日と総会開催日(定款変更)
主な負荷経理・子会社・監査法人に集中株主への説明、株主名簿・配当基準日の実務
準備期間業務改革として1〜2年定款変更の決議から実施まで約1年
実現の制約監査法人のリソース、海外子会社の締め配当基準日の変更に対する株主の理解
残る課題開示は早まるが総会日程は変わらない経営責任の確定が後ろへずれる

【第3章】どちらを選ぶにせよ、問われるのは中身

1. 論点①:日付をずらすだけでは、何も変わらない

ここは冷静に見ておくべきところです。総会を後ろへ動かすことには、無視できない副作用があります。

  • 取締役の選解任や、経営陣への信任確認が遅れる
  • 決算期末から総会までの、経営責任が確定しない期間が長くなる
  • 各社が7月末に集中すれば、総会集中の問題が後ろへ移るだけになる
  • 3週間を確保しても、対話の機会を設けなければ形式的な対応に終わる

実務上の負担も小さくありません。有識者会議では、基準日の変更、とりわけ配当確定の基準日を後ろへずらすことについては、株主への丁寧な説明がなければ合意を得にくいという企業側の指摘がなされています(注7)。総会を7月にしたというだけでは、ガバナンスが良くなったとは言えません。

2. 論点②:確保した時間を、何に使うか

したがって評価すべきなのは、日程ではなく、生まれた時間の使い道です。問いは4つあります。

  • 有価証券報告書と招集通知の情報を、統合し整合させたか
  • 株主が議案を検討しやすい形にしたか
  • 事前質問や投資家との対話の機会を充実させたか
  • 総会の場で、実質的な議論が行われたか

この基準に照らすと、先の事例は一体開示を実施したうえで6月26日に情報を出し、総会に先立って株主からの事前質問を受け付ける期間も設けています。単なる日程の操作ではなく、総会前の情報提供と検討期間を実質的に確保しようとした対応と評価するのが妥当です。後ろ倒しを選ぶ企業が問われるのは、この一線をどちらで越えるかです。

3. 論点③:どちらの道でも、避けて通れない情報基盤

経路は2つあっても、根にある課題は同じです。

決算前倒し型を選ぶなら、ボトルネックは子会社決算、監査、社内手続の3か所に集中します。とりわけ国内外の子会社から数値と開示情報を集める工程は日程の最上流にあり、ここが動かなければ下流は一切前倒しできません。海外子会社等からの決算情報の収集のシステム化が大きく進んだことで総会前の早期開示を実現した企業の例が知られています。依頼と催促で情報を集めている限り、日数は縮みません。

総会後ろ倒し型を選んでも、一体開示にまで踏み込むのであれば話は同じです。一体開示は、会社法監査と金融商品取引法監査の日程、会計監査人との連携、内部統制評価、後発事象の確認、監査報告の作成時期などに広く影響し、移行の初年度には作業日程の変更や特定時期への負荷集中が生じ得ると指摘されています(注5)。

共通しているのは、必要な情報が部門と子会社に分散していて、経営に還流していないという構造問題です。ここに手を入れるのであれば、リスク情報や人的資本の指標も同じ経路を通すことができます。個別に対応すれば3度の投資になり、統合して設計すれば一度で済みます。

── 図表3:時間を確保したあとに問われること ──

生じ得る副作用評価すべきこと
取締役の選解任・信任確認が遅れる有報と招集通知の情報を統合し整合させたか
経営責任が確定しない期間が長くなる株主が議案を検討しやすい形にしたか
総会集中の問題が7月末へ移るだけになる事前質問や投資家との対話を充実させたか
対話機会がなければ形式的対応に終わる総会の場で実質的な議論が行われたか

【結論】企業として取るべきアクション

有価証券報告書の総会前開示は、6つの改訂論点のなかで最も準備期間が長い論点です。しかもどちらの道を選ぶかによって、必要な準備がまったく異なります。取るべき打ち手を5つに整理します。

  1. どちらの道を取るかを、経営として決める:決算前倒し型と総会後ろ倒し型では、担当部署も所要期間も変わります。経理部門に「早期化を検討せよ」と指示するだけでは、選択肢の半分が最初から視野に入りません。取締役会または経営会議の議題として、明示的に選択します。
  2. 後ろ倒しを選ぶなら、定款変更から逆算する:基準日の変更には定款変更が必要で、決議した総会の翌年からの実施になります。先行事例も2025年6月の総会で決議し、実施は2026年でした。2027年の総会で決議すれば実施は2028年です。この助走期間を織り込んだうえで、コーポレートガバナンス報告書には決議済みである旨を説明します。
  3. 確保した時間の使い道を、先に設計する:事前質問の受付、社外取締役を含む対話の機会、招集通知と有価証券報告書の情報の整合。日程を動かす前にこれらを設計しておかなければ、生まれた時間は空白のまま過ぎます。
  4. 情報基盤を「決算専用」で設計しない:収集と集約の仕組みを作るときは、リスク情報や人的資本の指標も通せる設計にします。どちらの経路を選んでも、情報が子会社と部門に分散している限り制約は残ります。
  5. 2026年度中に一度、実際に回してみる:決算前倒しなら早期決算のリハーサル、後ろ倒しなら基準日変更が株主名簿・配当・IR日程に及ぼす影響の洗い出し。2027年に語るべきは計画ではなく運用の実績です。

── 図表4:2027年に向けた逆算工程 ──

時期決算前倒し型を選ぶ場合総会後ろ倒し型を選ぶ場合
2026年度上期現行日程の可視化とクリティカルパスの特定/監査法人との実現可能性の協議基準日変更の影響範囲の洗い出し(配当基準日・株主名簿・IR日程)
2026年度下期決算・開示日程の再設計/情報収集の標準化とシステム化定款変更議案の設計と、株主への説明方針の準備
2027年度上期早期決算・開示のリハーサルと改善/報告書への反映定時株主総会での定款変更の決議/新日程と対話設計の開示

【注釈】

(注1)コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)の概要|金融庁|2026年7月|https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/04.pdf

(注2)決算:有価証券報告書、9割が総会前に開示 上場企業平均で1.7日前|日本経済新聞|2026年7月|https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB212QA0R20C26A7000000/

(注3)定時株主総会の2週間以上前に有価証券報告書の提出を予定している上場会社一覧|金融庁|2026年7月|https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sokaimaekaiji/list.html なお、日本経済新聞(注2)はあずさ監査法人による上場企業約2,150社の集計に基づき、2026年3月期に3週間以上前の開示を行った企業を7社としている。本稿の社数は金融庁の公表一覧に基づく。

(注4)定款の一部変更に関するお知らせ|株式会社アドバンテスト|2025年5月|https://www.advantest.com/ja/news/2025/c9kqiu000000043m-att/J_Info_20250522_02.pdf

(注5)アドバンテスト「有価証券報告書兼事業報告書」を公表 「一体開示」の第一号|監査役ニュース|2026年6月|https://corporateauditor.blog.jp/archives/40547271.html

(注6)〈トピックス〉株主総会後倒しのための定款変更事例 ― アドバンテスト、ソラコム|資料版商事法務オンライン|2025年7月|https://shiryouban.shojihomu.co.jp/202507-s04/

(注7)「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(令和7年度第2回)議事録|金融庁|2026年2月|https://www.fsa.go.jp/singi/revision_corporategovernance/gijiroku/260226.html

【参考ソース】

弊社では、有価証券報告書の総会前開示への対応について、決算前倒しと総会後ろ倒しのいずれを選ぶかの意思決定支援から、決算プロセスの再設計、海外子会社を含む情報収集の標準化・システム化、議決権基準日の変更に伴う実務影響の洗い出し、確保した期間を活かす株主対話の設計までをご支援しております。決算・リスク・人的資本の情報を1つの基盤に統合する構想の策定も伴走支援いたします。
コンサルティングや研修、取材等のご依頼は以下よりお問い合わせください。

←ナレッジ一覧へ戻る

CONTACT

まず、課題をお聞かせください。

プロジェクトのご依頼、提供サービスに関するお問い合わせ、料金のご相談、事業承継のご相談まで、内容を問わずお受けします。