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ヒューマノイドの投資対効果:フィジカルAI連載第5回

ヒューマノイド(人型ロボット)の価格は、長いあいだ誰も答えられない問いでした。メーカーは公表せず、導入企業も契約金額を出さない。だから記事も「1台数千万円と言われる」といった書き方でお茶を濁すしかありませんでした。

その状況が2026年6月に変わります。米Agility Roboticsが特別買収目的会社(SPAC)との合併合意を発表し、投資家向け資料を米国証券取引委員会(SEC)に提出したのです。上場に向けた開示なので、価格も稼働前提も原価も書いてあります。同社はAmazon、GXO、Schaeffler、トヨタ自動車のカナダ工場、Mercado Libreに機体を納めている実績のある会社です。

そこに書かれていたのは、1台あたり月額8,500ドル、年間で約10万ドル、5年累計で約50万ドルという数字でした。そして同じ工程を人で回した場合の費用が、隣に並べて書かれています。フルバーデン時給約30.50ドル、年間約20万ドル、5年累計約110万ドル。米国の人件費と比べれば、ロボットのほうが半分で済む。これが、業界で初めて公になったヒューマノイドの経済性です。

ただし、この計算を日本の人件費で組み直すと結論が変わります。日本では、ロボットのほうが高くつきます。理由は単純で、日本の人件費が米国より低いからです。本稿では、その差がどこから来るのか、では日本ではどこを狙うのか、契約から稼働までどれだけかかるのか、補助金と税制でどこまで下がるのか、そして帳簿にどう載るのかを整理します。

1. 値段が、初めて公になった

まず、開示された数字を全部並べておきます。出所はAgility Roboticsが2026年6月にSECへ提出した投資家向け資料です。

── 図表1:顧客が払う金額 ──

項目金額
RaaS月額8,500ドル(1台)
一時展開費用約25,000ドル
RaaS年間約10万ドル
RaaS 5年累計約50万ドル
買い取り5年累計約40万ドル

出典:Agility Robotics/Churchill Capital Corp XI 投資家向けプレゼンテーション(SEC提出、2026年6月)。同資料は、これらの数値を次世代機Digit v5に関する概算・例示(illustrative)であると注記しています。

RaaS(Robot-as-a-Service)とは、機体を買わずに月額で借りる契約形態のことです。この月額には、同社のソフトウェア「Agility Arc」の利用権と機体の保守が含まれています。回収期間とリターンについては、RaaSが「即時回収(Immediate Payback)」で顧客の投資収益率2.0倍、買い取りが回収1.1年で2.5倍と書かれています。RaaSが即時回収なのは、初期投資(資本的支出)が発生しないためです。買い取りは初期に払うので回収に1.1年かかりますが、5年で見ると累計コストが安く、リターンが大きくなります。

1-1. 前提になっている稼働条件

金額だけ見ても意味がありません。どれだけ働かせる前提なのかが効きます。

── 図表2:価格の前提になっている稼働条件 ──

前提内容
稼働時間週約120時間(1日10時間×2交代)
年間稼働52週
想定寿命約31,000時間

出典:同投資家向けプレゼンテーション

週120時間、年52週で5年動かすと約31,000時間になります。つまりこの価格は「ほぼ止めずに回す」前提で成り立っています。1日8時間・週5日なら年2,000時間程度で、5年でも1万時間に届きません。同じ50万ドルを1万時間で割れば、時間単価は3倍になります。稼働率が経済性を決めるということが、ここで金額として現れます。

1-2. 原価と実績

さらに踏み込んだ数字も開示されています。Digit v4の材料費(BOM)が約125,000ドルです。次世代機の見通しについては、SECの資料ではなく合併発表の説明会でCEOのペギー・ジョンソン氏が、1台を125,000ドルで製造できており、次世代では材料費を30,000ドルまで下げる明確な見通しを持っていると述べています。

材料費が12.5万ドルなら、5年で50万ドル取れば十分に成り立ちます。そして材料費が3万ドルまで下がれば、価格を下げる余地が大きく生まれます。粗利率については、投資家向け資料でローンチ時約50%、年産1,000台で約65%と示されており、説明会では事業のスケールに伴って70%を超えると説明されています。

価格の裏づけとして、稼働実績も開示されています。稼働拠点は9拠点(さらに3拠点が受注済み)、累計稼働時間は65,000時間、次世代機Digit v5の複数年契約受注は3億ドル超・1,000台。生産能力はオレゴン州セーラムの自社工場RoboFabでピーク年産10,000台、部品の約75%を米国調達としています。精度は材料搬送で98%(約25,000トート)、トートのフルフィルメントで10万トート超です。

2. 米国の人件費と並べると、半分になる

この資料は、比較の相手を明示しています。人件費の置き方まで書いてあります。米労働統計局の公表時給(材料運搬職、2025年)が21.49ドル、これに対してフルバーデン時給が約30.50ドル。「フルバーデン」とは、賃金だけでなく社会保険料や福利厚生などの事業主負担を含めた実際のコストのことです。賃金の1.4倍程度が実際に出ていく金額になります(この倍率は資料に明示された数値ではなく、両者を割った値です)。日本でも、賃金に法定福利費が上乗せされる点は変わりません。

年間20万ドルという数字も検算できます。時給30.50ドル×年間6,240時間(週120時間×52週)で19万320ドル。資料の「約20万ドル」と整合します。週120時間をカバーするには2交代が必要なので、これは実質2人分の人件費です。

── 図表3:ロボットと人を並べる(米国・同一稼働条件) ──

期間ロボット(RaaS)人(フルバーデン)
年間約10万ドル約20万ドル
5年累計約50万ドル約110万ドル

出典:同投資家向けプレゼンテーション。人件費側は時給30.50ドル・週120時間・年52週を前提とし、年5%の賃金上昇を織り込んだ試算とされています。

2-1. この比較が成り立つ4つの条件

人と同等にこなせる工程か

いまのヒューマノイドが人と同等の速度で回せるのは、単純な反復作業に限られます。多段の判断が入る作業では、第三者の分析で人の4〜10倍の時間がかかっています。1台で1人分を置き換えられない工程では、この計算は成立しません。

週120時間を回せるか

1交代しか回さない工場では、分母が半分になります。稼働時間の前提が崩れると、時間単価は一気に上がります。

システム構築費は別勘定

産業用ロボットの導入では、本体価格が総額の3割程度でシステム構築費が5割を占めます。RaaS月額は機体と保守とソフトウェアの利用権であり、周辺設備の設計・製作、既存設備との接続、安全対策の工事は別です。一時展開費用25,000ドルが工場側の工事費を含むとは書かれていません。

米国の人件費との比較

人件費の水準が違う国では、同じ計算をしても答えが変わります。この点が日本にとって決定的に効きます。

この条件が揃う工程を先に見つけることが、実務の出発点になります。逆に言えば、条件が揃った工程では、いまの価格でも経済性が立つ。それが2026年時点の到達点です。

3. 値札を出しているのは、中国の2社だけ

Agilityの開示は例外的なものです。しかもRaaSの月額であって、機体の売値ではありません。「1台いくらで買えるのか」を店頭表示しているメーカーを探すと、状況はまったく違います。

── 図表4:主要メーカーの価格開示状況 ──

メーカー状況
Figure AI本体価格・RaaS料金・目標単価をいずれも公表していない。評価指標としてフルバーデンの時間当たり運用コストを使うと述べているだけで、数値はない
Apptronik公表していない。「コスト効率が高く量産可能」という定性表現のみ
Boston DynamicsSpotもAtlasも現在は価格非公表。公式FAQにSpotとStretchは商用販売中だがAtlasは商用化の初期段階にあると記載
TeslaOptimusの価格はIR資料に一切記載がない。2025年度のForm 10-Kには、まだBotを商用化していないと明記
UBTECH香港上場企業だが、機体の単価は公表していない(台数と売上は開示)
Fourier/Galbot公式サイトに価格の掲載なし
Unitree公式ストアに掲載。R1が4,900ドルから、G1が13,500ドル、H2が29,900ドル、H1が90,000ドル(実価格は要問い合わせの注記あり)、H2 Plusが100,000ドル。中国国内サイトではG1が8.5万元から。いずれも関税別
AgiBotグローバル公式ストアに掲載。X2が24,240ドル、A2 Liteが44,560ドル

2026年9月時点。強調行は公式ストアに価格を掲載している2社

日本国内では、Unitreeの正規代理店であるTechShareが2024年6月のプレスリリースで、G1のベーシック版を298万円、R&D標準版を598万円と公表しています(いずれも期間限定の特別価格で、その後はオープン価格)。H1は2023年12月のリリースで1,580万円(税抜)の予約販売価格が示されました。現在は両社とも見積対応で、公表定価は存在しません。

3-1. 価格の桁が3つある

ヒューマノイドと呼ばれる機械には、価格帯が3つあります。この区別が、実務では一番効きます。

── 図表5:3つの価格帯 ──

帯価格該当する機体
研究・教育用4,900〜44,560ドルUnitree R1/G1/H2、AgiBot X2/A2 Lite
上位機90,000〜100,000ドルUnitree H1/H2 Plus
実務投入機年100,000ドル(5年で500,000ドル)Agility Digit(RaaS)

公表されている通貨のまま記載

この3つを混ぜて議論すると、話が噛み合わなくなります。「ヒューマノイドが5,000ドルで買える」という話と、「実務に入れると年10万ドルかかる」という話は、どちらも正しい。20倍の差があります。ただし前者は研究・教育用の機体であり、産業現場で人の代わりに働かせる保証も、保守体制も、安全PLCやカテゴリ1停止といった安全機能の水準も、価格に含まれていません。同じ「ヒューマノイド」という言葉で呼ばれているだけで、買っているものが違うわけです。

出荷実績を見ると、この区別はもっとはっきりします。Unitreeは上海証券取引所への上場申請書類で2025年の人形ロボット出荷が5,500台超(純人形、車輪型双腕を除く)と開示しています。UBTECHは香港取引所の業績公告で2025年のフルサイズ人形ロボット販売が1,079台(売上約8.2億元)、2026年上期が921台と開示しました。一方でAgilityの稼働拠点は9拠点です。台数が出ているのは主に研究・教育用途、実務投入は拠点数で数える段階という構図になります。

4. 日本で計算すると、ロボットのほうが高い

米国の数字をそのまま持ってきても稟議は通りません。日本の人件費で組み直すと、結論が反転します。

4-1. 比較の相手になる人件費

毎月勤労統計調査の2025年分結果確報(事業所規模5人以上、就業形態計、月平均)によれば、現金給与総額は製造業で430,282円、運輸業・郵便業で379,045円、調査産業計で355,941円です。

ただし、これは現金給与だけです。事業主が実際に負担する額はもっと大きくなります。就労条件総合調査(対象は2019年度実績)では、常用労働者1人1か月平均の労働費用総額が408,140円、うち現金給与額が334,845円で構成比82.0%、現金給与以外の労働費用が73,296円(うち法定福利費50,283円)と示されています。産業別では製造業の労働費用総額が476,149円で、製造業では現金給与が労働費用の80.8%を占めます。

つまり、製造業の現金給与総額430,282円を0.808で割ると月約53万円、年間で約640万円になります。米国のフルバーデン係数(1.4倍程度)より日本の上乗せは小さいのですが、これは調査年度と項目の定義が違うためで、単純比較はできません。またこの試算は、母集団(毎月勤労統計は事業所規模5人以上、就労条件総合調査は企業規模30人以上)と調査年(労働費用は2019年度実績)が異なる掛け合わせです。桁を掴むための目安として扱ってください。

もうひとつ、下から効いてくる数字があります。2026年度の地域別最低賃金は、2026年9月3日の答申で全国加重平均1,177円(前年度から56円引上げ)となりました。引上げ額は全47都道府県で54円から65円、発効は2026年10月1日から12月2日にかけて順次です。最高額1,280円、最低額1,085円。時給ベースの工程では、この上昇が毎年、投資判断の分母を押し上げていきます。

4-2. 並べると、米国と逆の答えが出る

Agilityの前提(週120時間・年52週)で、日本の製造業の労働費用で計算します。週120時間をカバーするには2交代、つまり2人分の人件費が必要です。年約640万円×2人で年約1,280万円、5年で約6,400万円になります。これに対してAgilityのRaaSは年10万ドル、5年で50万ドル。1ドル150円で置くと、年1,500万円、5年で7,500万円です。

── 図表6:ロボットと人を並べる(日本・製造業) ──

期間ロボット(RaaS)日本の製造業で人2人
年間約1,500万円(1ドル150円換算)約1,280万円
5年累計約7,500万円約6,400万円

為替は1ドル150円を仮定した本稿の換算。人件費は毎月勤労統計と就労条件総合調査を掛け合わせた試算

日本ではロボットのほうが高く、5年で1,000万円強の差が出ます。1ドル140円で計算しても年1,400万円で、まだ人件費より高い。米国で成り立つ経済性が、日本では成り立たないのです。

米国のフルバーデン時給30.50ドルは、1ドル150円なら約4,575円。日本の製造業の労働費用を年約640万円・年2,000時間で割ると時給約3,200円になります。同じロボットを買っても、置き換える人件費の単価が7割程度しかない。これでは回収まで届きません。

4-3. では、日本ではどこを狙うのか

ただし、人件費より高いという結論で検討を止める必要はありません。単純な人件費の置き換えでは合わないものの、狙う工程を絞り込む手がかりになります。日本で経済性が立つのは、次のいずれかを満たす工程です。

人が採れない工程

募集しても応募が来ない工程では、比較の相手が「人件費」ではなく「工程が止まること」になります。分母が機会損失になるので、計算が変わります。

人にやらせたくない工程

国内で脚のあるロボットが先に入ったのは、鉄道設備の高所作業や建設現場の巡視といった場所でした。墜落や感電のリスクを金額に置き換えれば、比較の土俵が変わります。

稼働時間を伸ばせる工程

ロボット側の費用は時間に比例しません。3交代・24時間に近づけられる工程なら、人件費側は3人分になるのにロボットは1台のままです。年3人分(約1,920万円)と年1,500万円なら、ロボットのほうが安くなります。

補助金と税制を使える工程

補助率1/2の補助金と即時償却を組み合わせると、初年度のキャッシュアウトは大きく圧縮できます。日本には米国にないこの経路があります。

日本で最初に狙うべきは、いま人が3交代で回している工程です。そして、材料費の見通しが変われば全体が動きます。Agilityが示している次世代機の材料費3万ドルが実現すれば、価格を下げる余地が生まれます。いま日本で合わないのは価格が高いからで、工程が向いていないからではありません。向いていないなら見送るしかありませんが、価格の問題なら待つという判断ができます。

5. 契約から稼働まで、半年から1年かかる

次に時間軸を見ます。ここも、Agilityの開示に手順が書かれています。同社が公表している導入プロセス(Customer Acceleration Program)は次の段階を踏みます。

技術実証(0〜2か月)

Proof of Tech。技術的に成立するかを確認する段階です。

概念実証(2〜3か月)

Proof of Concept。対象工程で成立するかを確認します。

パイロット(4〜6か月)

RaaS Pilot。実運用でデータを取得します。終了時点で、投資収益率を定量化した90日分の運用データが手元に残る設計です。

本格展開(6か月超)

スケール展開への移行。ここで初めて台数が増えます。

この90日分のデータが、次の稟議の材料になります。

5-1. 実際の導入事例の時間軸

── 図表7:公表されている事例の時間軸 ──

時期案件内容
2024年1月BMW×Figure商用契約を発表。段階的アプローチを取ると記載し、稼働時期は明示せず
2024年8月BMW×FigureBMWが数週間のトライアルの成功を公表。同時に、現時点で工場に機体はなく投入の具体的な時期も決まっていないと明記
2025年BMW×Figure10か月間の本番稼働。板金部品9万点超、X3を3万台超、約1,250稼働時間
2026年6月BMW×Figure後継機Figure 03の投入を両社が発表
2025年6月BMW×HexagonHexagon Roboticsが初のヒューマノイド「AEON」を公開
2025年12月BMW×Hexagonライプツィヒ工場での初回テスト投入。2026年4月に追加テスト、同年夏から本格パイロット、年末に本番投入予定
2023年12月GXO×Agilityジョージア州の拠点でパイロット開始を公表
2024年6月GXO×Agility業界初の複数年RaaS契約を締結(パイロット公表から約6.7か月)
2025年11月GXO×Agility商用稼働で10万トート超を搬送

出典:各社プレスリリースおよびBMW Group PressClub

Figure自身の記述では、契約から機体納入・テスト開始まで6か月、本番稼働まで10か月以内でした。ライプツィヒの案件は、評価開始から本番投入までおよそ1年強という時間軸です。

5-2. 既存手段と比べると、桁が違う

この期間感は、既存の自動化と比べるとどうでしょうか。協働ロボットのUniversal Robotsは、自動化エンジニアリングの経験がある人なら自社の協働ロボットを1時間未満で稼働させられるとし、顧客は1年以内に投資回収を見ることが多いと説明しています。AMRのLocus Roboticsは、数か月ではなく数日で立ち上がり、訓練は数分、12か月未満で投資回収に到達するとしています。

協働ロボットが「1時間で動く」のに対し、ヒューマノイドは「半年から1年」。これは機体の完成度の差ではなく、枠組みの成熟度の差です。協働ロボットには標準的な導入手順、システムインテグレータの経験値、安全規格と通達が揃っています。ヒューマノイドにはまだありません。裏を返せば、この半年から1年は、いま先行する企業だけが払っているコストでもあります。手順が固まれば短くなります。

6. 補助金と税制で、どこまで下がるか

ここは日本の企業に固有の話で、しかも効き方が大きい領域です。補助率1/2、上限1億円の制度が現に動いています。

── 図表8:使える補助金(2026年9月時点) ──

制度状況補助率上限額
省力化・カタログ型随時受付中(2027年3月末頃まで)1/2以下従業員5人以下500万円(大幅な賃上げ時750万円)/6〜20人750万円(1,000万円)/21人以上1,000万円(1,500万円)
省力化・一般型第8回公募要領が公開済み(2026年8月18日公開/申請受付は9月中旬開始、締切10月中旬予定)中小1/2(大幅賃上げ2/3)、小規模2/35人以下750万円(1,000万円)〜101人以上8,000万円(1億円)
新事業進出型第1回公募中(締切2026年10月30日18:00)中小1/2(条件付き2/3)、グローバル枠は一律2/3革新的新製品・サービス枠 最大2,500万円(3,500万円)/新事業進出枠・グローバル枠 最大7,000万円(9,000万円)
成長加速化3次公募(2026年9月29日〜10月29日15:00)1/2最大5億円(投資額1億円以上、「100億宣言」の公表が必須)
大規模成長投資6次公募は2026年8月31日で締切済1/3以下最大50億円(投資額20億円以上、100億宣言企業は15億円以上)
物流DX実証2次公募は2026年7月31日で締切済(国土交通省)1/2以下機器導入3,000万円/社(賃上げ時3,300万円)、システム構築・連携2,000万円/社
事業再構築終了(第13回・2025年3月26日で新規受付終了)——

出典:各制度の公募要領および中小企業庁・国土交通省の公表資料

カタログ注文型は2026年3月19日に制度が改定され、補助上限額が引き上げられました。「大幅な賃上げ」の定義も「45円以上増加」から「3.0%以上増加」に変わっています。

そしてカタログ注文型には、すでに搬送系ロボットが登録されています。中小企業庁の販売事業者向け資料(2025年2月時点で全58カテゴリ)には「無人搬送車(AGV・AMR)」が含まれ、ほかに一本バー搬送ロボット、プレス用多関節ロボット、プレス間搬送ロボット、建設現場作業ロボット、清掃ロボット、配膳ロボット、飲料補充ロボットなどが並んでいます。ヒューマノイドのカテゴリは現時点で確認できませんが、AGV・AMRが入っている以上、搬送用のロボットであること自体が障害になるわけではありません。カタログにない設備はオーダーメイドの一般型で申請する道があります。なおカテゴリは随時追加・見直しされるため、申請前に公式の製品カタログで最新の登録状況を確認する必要があります。

なお、旧IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金2026」に名称が変わっています。対象はソフトウェア購入費とクラウド利用費(最大2年分)で、機械装置やロボット本体は対象外です。複数の機械を束ねるソフトウェアの部分には使える可能性があります。

自治体の制度も動いています。東京都中小企業振興公社の「躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」は機械装置・器具備品・ソフトウェアを対象とし、助成率は中小企業者1/2〜3/4以内・小規模企業者2/3〜4/5以内、助成限度額は100万円〜1億円(アップグレード促進は1億〜2億円)。第14回の申請受付は2026年10月23日から11月24日13:00までで、これから受け付けが始まります。愛知県の「ロボット未活用領域導入検証補助金」は補助率2/3以内・上限500万円で、ロボット本体の購入費は対象外だがレンタル・リース費用は対象という設計です。RaaS契約と相性がよいものですが、2026年度の公募は5月29日で締切済みなので、次年度を待つことになります。

6-1. 税制は2つ、どちらを選ぶか

中小企業経営強化税制(適用期限:2027年3月31日)

即時償却(取得価額の全額を初年度に損金算入)、または取得価額の10%の税額控除(資本金3,000万円超の場合は7%)。対象は機械装置で1台または1基160万円以上。経営力向上計画の認定が必須で、加えて工業会証明書または経済産業局の確認書が必要になります。対象設備の名称に「産業用ロボット設備」があり、対応工業会は一般社団法人日本ロボット工業会です(一部の業種区分では一般社団法人日本産業車両協会も併記)。搬送・荷役系の設備は「荷役又は倉庫業用設備及び卸売又は小売業の荷役又は倉庫業用設備」の名称で、日本産業車両協会が対応します。証明書の発行元は設備メーカーに確認するのが確実です。

中小企業投資促進税制(適用期限:2027年3月31日)

取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除(税額控除は個人事業主と資本金3,000万円以下の中小企業のみ、控除上限は当期法人税額の20%)。対象は機械装置で1台または1基160万円以上。経営力向上計画の認定は不要で、手続きが軽く済みます。

なお、DX投資促進税制は2025年度税制改正で廃止されました(適用期限の到来をもって廃止)。国税庁のタックスアンサーからも該当ページが削除されています。ロボット導入に使えると誤解しやすいので、注意が要ります。2026年度税制改正では、経営強化税制の「工具及び器具備品」と投資促進税制の「工具」について、取得価額要件が30万円以上から40万円以上に引き上げられました。ただし機械装置の160万円以上という要件は変わっていません。

補助金1/2と即時償却を組み合わせると、初年度のキャッシュアウトはかなり圧縮できます。この組み合わせは協働ロボットやAMRの導入で実際に使われてきたもので、ヒューマノイドでも機械装置として要件を満たせば同じ構造になります。

7. 帳簿にどう載るか ── 耐用年数とリース会計

7-1. 法定耐用年数は「業種」で決まる

減価償却資産の耐用年数等に関する省令には、「産業用ロボット」という独立した項目が存在しません。別表第一(器具及び備品)にも別表第二(機械及び装置)にも、ロボットという細目はありません。

では何年で償却するのか。答えは、そのロボットを使う事業の「設備の種類」で決まるというものです。別表第二の「機械及び装置」は業種別に55区分され、区分ごとの総合償却で耐用年数が定まります。国税庁の平成20年度改正Q&Aは、設備がどの業種用に該当するかにより判定すると示しています。

── 図表9:設備の種類ごとの法定耐用年数 ──

設備の種類耐用年数
食料品製造業用設備10年
金属製品製造業用設備10年(その他の設備)
倉庫業用設備12年
運輸附帯サービス業用10年
区分によらないもの17年(第55号/その他の設備・主として金属製のもの)

出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

つまり、同じ機体でも工場に置くか倉庫に置くかで償却年数が変わります。そして注意すべき点があります。Agilityが開示している想定寿命は約31,000時間、5年です。法定耐用年数10〜12年と、メーカーが想定する使用可能期間5年が食い違っています。償却が終わる前に機体を入れ替える前提で計画を組むことになるので、稟議では償却期間ではなく実使用期間でキャッシュフローを見たほうが実態に合います。

7-2. RaaSは2027年4月から貸借対照表に載りうる

もうひとつが会計基準の変更です。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」が2024年9月13日に公表され、2027年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

変更の核心はこうです。日本公認会計士協会の解説によれば、借手はIFRS第16号と同様に、ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかにかかわらず、原則としてすべてのリースについて「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上する単一の会計処理モデルを採ることになります(貸手は従来の分類を維持します)。そしてRaaSに直接関わるのが、契約書に「リース」という記載がない場合でも、契約実態が原資産の使用権を対価と交換に移転するものであればリースと判断される、という点です。

「RaaS」「サービス利用契約」という名前でも、実態が機体の使用権の移転ならリースとして扱われます。月額をそのまま費用計上できるとは限りません。区別の考え方は、特定された資産(ロボット実機)の使用を支配する権利が一定期間移転するならリース(使用権資産・リース負債をオンバランス)、供給者が資産の使用方法を決め、成果(搬送量、ピック数など)に対して課金するならサービス契約(期間費用)というものになります。

RaaSをオフバランスで入れられるという理由で選ぶのなら、契約の書き方まで含めて設計しておく必要があります。2027年4月以後開始事業年度からの適用なので、いま結ぶ契約も経過措置の対象になります。財務部門を早い段階で議論に入れておいたほうがよいでしょう。なお、RaaSの月額料金の税務上の扱いについて、国税庁が見解を示した資料は確認できませんでした。

8. 稟議に載せる数字を、どう組むか

── 図表10:稟議書を組む順番 ──

順番やること押さえどころ
① 稼働時間対象工程の稼働時間を先に確定する週何時間、年何週。2交代か3交代か。日本の人件費水準では2交代でも足りず、3交代に近い工程でようやく計算が合う
② 人件費その工程の人件費を労働費用ベースで出す現金給与ではなく法定福利費を含めた額。製造業なら現金給与を0.808で割る。時給ベースなら最低賃金の上昇を年次で織り込む
③ 為替ドル建ての費用は前提を明示する1ドル140円と160円で5年累計に1,000万円の差。感度分析(±10円)を添える
④ 周辺費用ロボット側の費用を機体だけで組まないシステム構築費、安全対策の工事費、教示とデータ取得の工数、立ち上げ支援要員、保守契約。ベンダーに項目建てで出させる
⑤ 補助金申請時期から逆算して計画に入れる公募スケジュールが実質的な意思決定期限になる
⑥ 税制2つの制度から選ぶ認定を取れるなら経営強化税制で即時償却または10%控除。手続きを軽くしたいなら投資促進税制
⑦ 償却償却期間と実使用期間のズレを明示する法定10〜12年、想定寿命5年前後。書かないと5年目の入れ替え費用が計画から漏れる
⑧ 会計処理RaaSなら財務部門と先に詰める2027年4月以後開始事業年度から、実態がリースならオンバランス
⑨ データ取得90日分の運用データを取りに行く最初の1台の目的はコスト削減ではなくデータ取得だと割り切る。リスクアセスメントの記録と合わせれば、2台目以降の稟議が通りやすくなる

本稿が各出典をもとに整理

①がこの手順の分かれ目です。価格ではなく稼働時間で対象工程が絞られます。③を空欄にした計画は、円安で崩れます。そして⑨について、最初の1台に求めるものを間違えないことが、社内の期待値管理では決定的に効きます。

9. 判断に必要な材料は、もう揃っている

本連載では、ヒューマノイドを「機体」ではなく「工程」の側から見てきました。整理すると、5つの論点になります。

何が変わったのか。2026年にPoCが本契約になり、汎用機が専用機の仕事をし、価格がPoC予算の範囲に降りてきました。BMWのスパルタンバーグ工場で10か月・9万点という実績が出ています。

どの工程が向くのか。共通しているのは「設備と設備のつなぎ目」であり、「入口は雑然、出口は整然」という形でした。物理的に扱えるかと、他の手段ではなくヒューマノイドを選ぶ理由があるかを、8つのポイントで見分けられます。

他の手段と比べてどうか。多くの工程では、いまでも協働ロボット・AMR・専用機のほうが安くて速い。ヒューマノイドが効くのは、その3つが揃って苦手とする限られた場所です。

安全と法令はどうなっているか。国際規格はまだヒューマノイドを正面から扱っていませんが、日本の法令には2013年から柵を外す道が用意されています。必要なのは新しい制度ではなく、リスクアセスメントを1件きちんと書き切ることでした。

いくらかかるのか。年間10万ドル、5年で50万ドル。米国の人件費と比べれば半分ですが、日本の人件費で計算すると逆にロボットのほうが高い。日本で合うのは、人が採れない工程、人にやらせたくない工程、3交代で回している工程です。

この5つを通して見えてくるのは、判断に必要な材料がもう揃っているということです。どの工程が向くかは分かる。既存手段との比較もできる。法令上の進め方も決まっている。価格も、少なくとも1社分は公開された。そして日本での損益分岐点がどこにあるかも、計算できるようになりました。

残っているのは、自社のどの工程で最初の1台を回すかを決めることだけです。そしてその判断は、規格の発行を待っても、次の機体を待っても、楽にはなりません。90日分の運用データを持っている会社と、持っていない会社の差が開いていくだけです。

【注釈】

(注1)本記事の内容は2026年9月時点で確認できた公開情報に基づきます。価格・ユニットエコノミクスはAgility RoboticsがSECへ提出した投資家向け資料を典拠とし、原典の通貨・単位のまま記載しました。同資料は、これらの数値が次世代機Digit v5に関する概算・例示であり、社内の見積りと仮定に基づくもので不正確となりうると注記しています。人件費との比較は年5%の賃金上昇を前提としています。

(注2)日本の人件費との比較にあたっては1ドル150円を仮定して換算しており、この前提は原典にはありません。フルバーデン係数(1.4倍程度)と年間人件費の検算(時給30.50ドル×6,240時間)も、原典の数値から本稿が計算したものです。

(注3)日本の製造業の1人あたり年間労働費用(約640万円)は、毎月勤労統計調査(事業所規模5人以上、2025年分確報)の製造業現金給与総額を、就労条件総合調査(企業規模30人以上、2019年度実績)の製造業における現金給与比率80.8%で割った本稿の試算であり、公表値ではありません。母集団と調査年が異なるため、桁を掴むための目安として扱ってください。

(注4)Figure AI、Apptronik、Boston Dynamics、Tesla、Fourier、Galbotは本体価格を公表しておらず、UBTECHは台数と売上を開示する一方で単価を公表していません。GXO・Agility間の契約金額、Agilityの一時展開費用に工場側の工事費が含まれるか、日本の正規代理店における現行の公表定価、中小企業省力化投資補助金カタログ注文型におけるヒューマノイドのカテゴリ登録、RaaS月額料金の税務上の取扱いについての国税庁見解については、いずれも公表資料を確認できませんでした。

(注5)補助金・税制の公募期間および要件は変更されることがあります。申請前に必ず各制度の公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。

【参考ソース:価格・ユニットエコノミクス】

【参考ソース:メーカーの価格開示状況】

【参考ソース:導入の時間軸】

【参考ソース:日本の人件費】

【参考ソース:補助金】

【参考ソース:税制・会計】

弊社では、公開された一次情報にもとづく費用構造の分解から、自社の人件費水準に置き換えた損益分岐点の算定、為替や稼働率の感度分析、補助金・税制の適用可否の整理、そして稟議書に載せる形への組み立てまでを支援しております。新技術の投資判断は、価格の高低ではなく前提条件の置き方で結論が変わります。数字の前提を可視化し、社内で合意できる投資計画の策定を伴走支援いたします。

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