ディズニーによるピクサー買収 ~ディズニーCEOとスティーブ・ジョブズでどんな議論がされたのか
2006年1月にディズニーCEOであるロバート(ボブ)・アイガーとスティーブ・ジョブズが、ディズニーがピクサーを買収することに同意し、同年5月に74億ドルで買収が実行されました。
今回アイガーとジョブズの間で、ディズニーとピクサーのシナジーについて、どのような議論がされたのかをご紹介し、M&A検討の学びにしていただければと思っております。
アップル本社の役員会議室でアイガーとジョブズの2名で議論が行われました。
まず、ホワイトボードを目の前にして、ジョブズがマーカーを握り、片側に「メリット」、反対側に「デメリット」と記載。
そして「デメリットはいくつか思いついた」と発言したかと思うと、以下のようなデメリットを書き連ねていきました。
- ピクサーの文化が壊される
- ディズニー・アニメーションを立て直すには時間がかかり、ジョンとエド (ピクサー創設者) が燃え尽きてしまう
- お互いに強い嫌悪感が残っていて、解消に何年もかかる
- 投資家が嫌がる
- 取締役会が許可しない
- 移植された臓器を体が拒絶するように、ピクサーはディズニーを宿主として受け入れない
- 買収の混乱によりピクサーの創造性を殺す
その後、アイガーがメリットを切り出します。
- ピクサーはディズニーを救い、その後みんなで幸せに暮らすことになる
但し、ジョブズはこの文言をホワイトボードに書き留めなかったそうです。笑
その後、ジョブズに「どういうことだ」と聞かれ以下のように言い直します。
- アニメーションを立て直せばディズニーのイメージが一変し業績も回復する。それに、ジョンとエドは、これまでよりはるかに大きなキャンバスに自分たちの絵を書くことができる
その後、2時間程度議論したそうですが、メリットはほとんど出なかった一方で、デメリットは余るほどありました。
そのような状況下でアイガーは諦めモードに入っていたそうですが、ジョブズは次のように発言。
「メリットは数少ないが間違いないものだし、たくさんのデメリットよりも重要だ。さて、ここからどうする?」その後、多くのデメリットに惑わされず、本質的に何が生み出せるのかを詰めていき、最終的には合意まで行きついています。
個人的な感想になりますが、これだけ大規模かつ、グローバル的にもインパクトがあるM&Aであり、そして世界を代表するような両社トップの議論でありましたので、非常に複雑かつ、高尚な議論が繰り広げられているのかと勘違いしていましたが、その実態は高尚ではあるものの非常にシンプルなものだと思います。
ジョブズが発言したとおりデメリットがいくつあっても関係なく、メリットの重みや、本当に成し遂げたいことを見失わないことが最も重要であることも、彼らの議論から考えさせられる部分であると思います。
また、アイガーはその後の回想において、買収の目的について、以下のように発現しています。「自分たちは本当のところ何を手に入れるか分からずに買収を行ってしまう企業は多い。買収は、物理的な資産や製造設備や知的財産を手に入れるためだと彼らは思っている。だがほとんどの場合は、買収によって手に入れるのはそこにいる人材だ。」
これもまたシンプルで力強い言葉です。
自戒を込めてですが、事業会社やコンサルティングファームがシナジーを検討していく際に、バリューチェーンに分解したり、売上とコストに分解したりして、MECEな洗い出しを行ったりします。
もちろんそれも思考の漏れを防ぐ大事なアプローチではありますが、より本質的に大事な部分を徹底的に議論するということを忘れてはいけないなと改めて考えさせられる部分だと思います。
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本記事の参考文献:Robert Iger「The Ride of a Lifetime」
(より詳細に内容を知りたければ原典に当たることをお勧めします。)